線を引く話

この4月から英文学科出身でもないのに大学の英語の専任になり、それ自体はこのご時世に大変幸運なことなのですが、極めていい加減にしか英語を勉強してこなかったので、いつもひやひやしながら授業に臨んでいます(しかも完全オンライン。ただ、わたしは板書が極めて汚いこともあり、訳読の授業にはオンラインの方がいいのではないかと最近思いつつあり。)。学生には毎週勉強していてわからなかったことを質問してもらうという形でフィードバックをもらっており、ときどき滅茶苦茶鋭い質問が来て回答に悩むことも多いです。オーストラリア英語の音声的な特徴に気が付く学生もいて、耳の良さというのは先天的なものもあるのだなあと思ったりします。わたしはダメダメなので。

普段は教科書を使うのですが、通常の授業が行われない週が時々あり、その時には教科書以外の課題を出すようにしています。課題探しのために英米語圏のニュースサイトなどを探して回ることが多く、そんなことをしているときに見つけたサイトの英文の話です。

edition.cnn.com

CNNのサイトで、内容も面白いのですが(CNNはトランプ大統領には批判的だという大前提を了解したうえでですが)、最後のセクションのタイトルが、まあ、なんというか英語文法総復習という感じでいいな、と思ったというだけの話です。以下に引用します。

"Never before has a leader in the highest office in one of the world's most powerful, if not the most powerful, democracies, taken the hammer himself, to start breaking down the very principles that the country once was proud to defend."

気が付いた文法的・語彙的な要点を以下に列挙します。

  1. Never beforeが文頭に出たことによる倒置
  2. officeの訳
  3. 絶対最上級
  4. 「例の」if not
  5. democraciesの訳(「民主主義」ではない)
  6. 不定詞to startの文中での機能をどう取るか
  7. veryとonceの訳

これらに注意しながら、日本語としても意味の通る訳文を作るのは、結構面白い頭の体操になるのではないかと思いました。

 

 

愛知で自殺者が急増してるという話

このニュースの件。

www.asahi.com

普通に他府県ではどうなのかというのが気になったので、どこかに統計があるだろうと思ってググってみたら、警察庁が出していました。

www.npa.go.jp

ここから2020年と2019年の8月の都道府県別の数字をコピペして、Excelにペッと貼って計算させようと思ったら、2019年版はPDF…。しかもですね、見てもらうとわかるのですが、年度によって都道府県の並びが違うのですよこれ。2019年度の方が、あとで出てくる総務省統計局の並びと揃っているので標準なのだと思うのですが、なんで意味もなくこんなことしてるんだこれ…。

気を取り直してコピペして同月前年比を出してみると、増加したのが28都府県、減少が17道県、増減なしが2県でした。上昇率(絶対数じゃないですよ)が100%超えてるのは、福井と高知の2県ですね(絶対数は、19と13。もちろん外れ値であることを考慮する必要があるでしょう)。ブクマにも書きましたが、東京は45%, この数字を超えてきてるのが、埼玉(64%), 千葉(78%), 愛知(63%), 徳島(60%), 愛媛(60%), 大分(58%), 宮崎 (56%)です。これらのうち、愛知以外の都県の知事が何らかのメッセージを発したという話は今のところないようですね。数字を眺めていると愛知県は、今年の6,7月は同月前年比がマイナスだったので、知事が敏感に反応して声明を出したというのは理解できます。

さて、次に気になるのはこの増加の原因ですが、経済状況の悪化が要因なのではないかというのはすぐ思いつく仮説です。しかし、「もともと様々な要因で自殺率が高いところが上昇してるんじゃねえの?」という可能性も捨てきれないので、仮説を簡単に検証してみました。

自殺率は先ほどの警察のサイトからPDF開いて手入力します。あと、都道府県別の平均収入を総務省統計局から入手しました。ここはエクセルなので入力簡単ですね。関係ないですけど、東京都と他府県の平均収入比較するとビビりますね。二つの国があるみたいに見えます。

www.stat.go.jp

ここで「自殺率と平均収入」、「自殺率と同月前年比の増加率」「平均収入と同月前年比の増加率」の相関を取ってみました。使ったのはexcelのcorrel関数です。結果は以下の通り。

自殺率と平均収入 -0.246
自殺率と増加率 -0.179
増加率と平均収入 0.147

いずれも正の相関関係があるとは言えないですね(自殺率と平均収入は、弱いですが負の相関を示してます)。増加率という動的な数値を扱っているのだから動的な指標、たとえば都道府県別失業率の増減との相関を取ってみるのがよいかと思うのですが、全国的な統計はないようです(年次ならば、参考値ということで上記統計局においてありますが)。

愛知県はウェブサイトで失業率の速報値を報じていて、直近の2020年4-6月は、完全失業率は2.3%で0.4%の上昇ということらしく、特に若年層(25~35歳)の上昇率が2.3%と大きいことがわかります。同じく速報値を報じている東京都でも同様の傾向が見て取れるため、このあたりに大幅な自殺者の増加の要因が隠れているように思われますが、検証にはもう少し詳細な統計が必要でしょうか。必要なのは年齢階層別の自殺者数と失業率の月次推移ですね。

www.pref.aichi.jp

以上でした。

人文学やばいという話

この記事がらみで。

https://anond.hatelabo.jp/20200827235740

日本におけるアフガニスタン研究というのは割と長い歴史があって、戦後は1955年の京大カラコルム・ヒンズークシ隊の調査に始まって、建築や考古学、芸術などの現地調査が何度も行われてきました。その中には7次にわたるイラン・アフガニスタンパキスタン調査隊の派遣や、民族音楽の調査(これは1970年代に3回くらい行ってるはず)なども含まれています。

そうした背景もあり、日本には、アフガニスタンの建築や文化財、考古学や芸術に関する専門家が育ってきました。タリバンによって破壊されたバーミヤンの石仏の修復についての専門家会議を日本で2017年に開催できたのも、そうした蓄積があったからなのです(以下の記事)。

https://www.sankei.com/life/news/171009/lif1710090005-n1.html

で、その会議に出席された何人かの専門家の先生と、会議後に線路渡った鶯谷の安い居酒屋でお酒を飲みながら聞いた話。ここ10年くらいアフガニスタンの治安の極度の悪化で、日本から調査隊を送り出すことは不可能になっていて(文科省からの通達で退避勧告が出ている地域には科研費を使った調査ができないし、そもそも危険が危ない)、若手の研究者が育っていない。そこにいらした先生方は今60代くらい、自分たちの世代で日本におけるアフガニスタン研究が途絶えてしまうことを真剣に危惧しておられました。

 

参考文献

一つ前のhttp://d.hatena.ne.jp/Cunliffe/20121217/1355753832の補完記事です。楽しい参考文献紹介。

古英語

小野茂、中尾俊夫. 1980. 「英語史I」英語学体系第8巻. 大修館書店.

古英語に関して日本語で読めるものとしては最も詳しい記述が得られます。発行がやや古いため最新の研究が漏れている可能性があるが、古英語研究はJ. R. R. Tolkienも従事していたことで知られるように長い研究の蓄積があり、実用上あまり問題はありません。史的音韻論や形態論だけでなく、韻律論や文体論まで含まれており、参考文献も非常に充実しているので、とりあえずこれを持っておくと何かと捗ること間違いなしだし、暇つぶしにも使えます。

Campbell, A. 1959. Old English Grammar. Oxford University Press.

上のものに比べると、よりシンプルな古英語の文法書です。ただし、実際に古英語のテクストを読みたいというときにはこちらの方がよいかもしれません。

荒木一雄他編. 1982. 「新英語学辞典」研究社.

英語学全般についての辞典で、項目数は少ないがその分各項目の記述内容は充実しています。どうも読んだ感じ様々な学説を可能な限り詰め込んで書こうとしていたようで、様々な学説が併記されている項目も少なくありません(迷うって…)。これもご家庭に一冊置いておくと暇つぶしによい本かもしれません。参考文献も非常に充実しています。

Sweet, Henry. 1897. The student's dictionary of Anglo-Saxon. The Macmillan company.

昔大学で古英語のテクスト読んだときにはこの辞書使ったんですが、今はオンラインで提供されています。
The student's dictionary of Anglo-Saxon : Sweet, Henry, 1845-1912 : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive
凄い時代になったものだ。

もう一つオンラインの辞書がありました。
Bosworth and Toller
今回はこちらを使いました。

古高地ドイツ語

Meineke, Eckhard, Judith Schwardt. 2001. Einfuerung in das Althochdeutche (Introduction to Old High German). Verlag Ferdinand Schoeningh.

古高地ドイツ語の入門書で、なぜかやたらと史的発達についての記述が充実しており半分以上がそれ。また、古写本についての記述も充実している。古高地ドイツ語は方言差の大きな言語だったので、それについての記述もきちんと行われている。ドイツ語でなければもっといいのに…。

辞書は以下のオンライン辞書を使用しました。
Althochdeutsches Wörterbuch
ありがたいことです。

ゲルマン祖語

ゲルマン祖語についての記述は、これまでに上げた文献の記述を綜合して行っています。Krahe-Meidくらい持ってますよね?という人嫌いです。語源辞書については、以下のものを使いました。

Orel, Vladimir. 2003. A Handbook of Germanic Etymology. Brill.

この辞書はなぜかオンライン上にフルテクストがPDFで置いてあります。参考文献などを見る限り非常にまじめに作ってありますし、記述は非常に慎重で信頼がおけるように思われます。

印欧祖語

印欧祖語については、日本語で読める良い本も結構ありますが、最新の研究を取り入れていてしかもシンプルであるということで以下のものを使用しました。印欧語の研究史などにも記述を割いており、非常に目配りの行き届いた良い本です。

Meier-Bruegger, Michael. 2003. Indo-European Linguistics. de Gruyter.

エッダ

エッダについては、以下の翻訳を使用しました。

V・G・ネッケル、H・クーン他編. 1973.『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳. 新潮社.

elfの言語学(みたいなもの)

本記事は、id:kousyou氏の記事、http://kousyoublog.jp/?eid=2773に対してわたくしが付けたブックマークのフォローアップ記事です。

前提として

議論を進める前提として、英語とドイツ語との関係を見ておくことにします。英語のもっとも古い資料は7世紀中ごろまでさかのぼることができ、そこからノルマン人による征服が行われる11世紀ごろまでの英語を古英語と呼びます。ドイツ語については、現在でも低地ドイツ語と高地ドイツ語という二つの大きな方言区分があり、標準語とされているのは高地ドイツ語の方なのですが、そちらのもっとも古い段階は古高地ドイツ語と呼ばれ、8世紀中ごろからの資料が存在します。低地ドイツ語の方も8世紀ごろからの資料が残されています。

古英語を話す人々が現在のイングランドに移住を始めたのは、考古学的な証拠によれば西暦400年ごろとされており、それから最初のまとまった分量の資料*1が現れる7世紀中ごろまでは、ルーン文字で記されたわずかな単語以外には、資料は存在しません。イングランドに移住する以前には、彼らは現在のユトランド半島南部からオランダあたりにかけての海岸部に居住していたと考えられています。現在、これらの地域で話されているフリジア語と英語との関係は非常に近く、当時は同じ言語グループに属していたと考えられています。また、上で述べた古い段階の低地ドイツ語*2ともいくつかの特徴を共有しており、フリジア語-英語のグループと一緒にIngvaeonicと総称されることがあります。これに対して、古高地ドイツ語は第二次母音推移*3を生じたという点で、Ingvaeonicに分類される諸言語と明確な対照をなします。これ以外にもIngvaeonic は、[mf, ns, nth]という音連続の[m, n]が失われるという特徴*4や、動詞複数形の変化が失われるという特徴があります*5

ところで、古高地ドイツ語とIngvaeonicは、伝統的な言語学による分類では西ゲルマン語というグループに分類され、西ゲルマン語はさらに北ゲルマン語*6、東ゲルマン語*7というグループとともにゲルマン語派というグルーブを形成するとされてきました。が、この伝統的な三分類に対しては、近年様々な学説があるようで、このあたりも確定的な記述とは言えない感じになってきています。しかし、古ノルド語やゴート語や英語、古高地ドイツ語などの諸言語がゲルマン語派というグループを成すことについては異論がありません。これらの諸言語は、第一次子音推移という音声的な特徴を共有するほか、いくつかの特徴を共有しています。これらの特徴は、ゲルマン語派も属するさらに大きな言語グループの印欧語族の他の言語と比べた時に、ゲルマン語派に所属する諸言語を他の言語から区別する特徴となるものです。

ともあれ、古高地ドイツ語と、古英語などの含まれるIngvaeonicグループは、西ゲルマン語という同じグループに属しており、共通する特徴も多いですが、やや異なる別のグループとして分類されます。問題は、これらの言語の関係をどのように言語学的に表現するかです。西ゲルマン語という伝統的な分類を認めるならば、古高地ドイツ語と古英語は、西ゲルマン語という仮構的な語を祖語として持つ類縁関係のある言語ということになるでしょう。ここで大事なことは、この場合、どちらかの言語がどちらかの言語からderiveした*8というのはあまり適切であるとは考えられないということです。というのも、古英語は古フリジア語などとIngvaeonicグループを形成しているわけですから、分派の関係は、まず古高地ドイツ語をIngvaeonicが分離し、その後、Ingvaeonicが分派したと考える方が適切だからです。

以上を前提として、わたしのブクマについて述べることにします。

本論

kousyou氏の上記記事に対する私のコメントは以下の通りです。

「古英語Aelfは古代高地ドイツ語Aelpより派生」んんん?/北欧神話にもエルフは出てくるので、おそらくゲルマン祖語の段階に(神話とともに)存在していて、そこから英語に継承されたのだと思います。

まず前半から、説明を加えることにします。

「古英語Aelfは古代高地ドイツ語Aelpより派生」んんん?

ここでは、「古英語Aelfは古代高地ドイツ語Aelpより派生」という記述に疑義を示しているのですが、まず、ここで使われている「派生」をどういう意味で取るかということに非常に迷いました。というのも、ここでは二つの可能性が示唆されているように思われるからです。

  1. 古英語は古高地ドイツ語からAelpという単語を借用した。
  2. 古英語は古高地ドイツ語から「派生」*9した。

両者の違いは、前者が古英語と古高地ドイツ語が別個の言語として並立している段階においてAelpという単語が古高地ドイツ語から古英語に借用されたと考えるのに対し、後者は古英語そのものが古高地ドイツ語から分かれて出てきたと考えるという点にあります。後者の可能性は、前節で述べたようにあまり可能性が高いとは考えられません。前者の可能性ですが、1つ問題があります。

まず、古高地ドイツ語の形式ですが、古高地ドイツ語の辞書などを参考にする限り正確にはAlpであるようです。それに対して古英語の形式はælfです。古ノルド語の形式はalvrですので、古英語では冒頭の母音がæ, 古高地ドイツ語と古ノルド語では冒頭の母音がaです。この母音の音色の違いは、実は英語+フリジア語でのみ生じた変化で、これらの言語を古高地ドイツ語などと区別するときの重要な特徴の一つです*10。この変化は英語+フリジア語では生じているが、古高地ドイツ語では生じていないため、古高地ドイツ語からの借用と考えると、この語に英語で音の変化が生じた理由を説明することが難しくなります。

以上が、「古英語の形式が古高地ドイツ語から派生した」という記述にわたしが疑義を示した理由になっています。

で、後半。

北欧神話にもエルフは出てくるので、おそらくゲルマン祖語の段階に(神話とともに)存在していて、そこから英語に継承されたのだと思います。

北欧神話はいくつかの叙事詩と散文などによって知られていますが、まとまったものは古アイスランド語で書かれた「エッダ」と「サガ」です。前者にエルフ*11が出てくるわけですが、これが書きとめられたのは12世紀頃からです。ただし、その中にあるさまざまな伝承についてはその成立はずっと古く、9世紀の初めごろから口承によって伝えられてきたものではないかと考えられています。

「エッダ」には大きく分けて3つの性質の異なる話が収められています。1つは神話であり、もう1つは教訓・格言、そして最後の1つはゲルマン民族の英雄たちの英雄譚です。これらのうちでエルフに関わる部分は最初の神話の部分になります。

北欧神話はもっとも純粋な形でゲルマン民族の神話を残していると言われることがあります。それは、特に「エッダ」が編まれたアイスランドが、キリスト教化が最も遅かったという事実に起因しています。古高地ドイツ語や古英語が話されていた地域が遅くとも7世紀頃にはキリスト教化されていたのに対し、アイスランドは1000年までキリスト教化がなされませんでした。このため、異教的な伝承が生き残ることができたと考えられています。

しかし、神話の中にキリスト教的な要素が全く入っていないとすることはできません。なぜならば、キリスト教化から書物に編纂されるまでの間には1世紀以上の隔たりがあり、なんらかの影響があったことを否定することは難しいからです。ここは、谷口幸男訳「エッダ」の解説に従って「せっかちに専ら異教的とすることも過ちなら、異教的なものをすっかり否定しようとする態度も正しくないように思えるのである」(p.287)としておくのがよいのではないかと思います。

このような態度に立ってエルフについて考えるときにヒントになるかもしれないのが、この形式が古ノルド語、古高地ドイツ語、古英語に残っているということです。alvr, alp, ælfは、規則的な音対応を示しており、ゲルマン祖語の*alβaz*12という形式にさかのぼると考えられます。つまり、少なくとも語形はゲルマン族が共通の言語を話していた時期まで遡ることができると考えられます。さらにこの形式は、ラテン語のalbus “白”や、ギリシア語のἀλφός “皮膚の白くなった部分”などとも対応するので、ゲルマン語以前の印欧祖語の段階に存在した*albhosという形式から継承された語形である可能性があります。

ただし、この語源を取らない辞書や、そもそも印欧祖語の*albh-という形式を借用と考える学者*13もいるため、上で述べたような語源説は、確定的なものではありません。

そのような留保を置いたうえでゲルマン語の形式が印欧祖語にまでさかのぼると仮定すると、元々の意味は「白いやつ」くらいだったのでしょう。形容詞から名詞への転用は、印欧語系の言語ではしばしば起こることですので、この意味的な派生には無理なく受け入れることができます。そこから更に「妖精」のような意味に発達していったのでしょう。これと並行して「白鳥」という意味の*alβizという形式があり、関連からいろいろなことが言えそうですが、ここではそれは避けておきます。

以上、印欧祖語の*albhosという形式から受け継がれた*alβazというゲルマン祖語の形式に「妖精」という意味が生まれ、それがゲルマン祖語から分かれた様々な言語にその妖精に関する様々な伝承とともに受け継がれたのではないか、というのが私のブコメの意図するところでした。それは明らかにゲルマン民族の異教的な伝承であり、キリスト教の伝来とともに目立たない家の隅に追いやられてしかし生き残ってきたというのは、元記事と一致するところです。

以上です*14

*1:Cædmon's Hymn http://en.wikipedia.org/wiki/C%C3%A6dmon%27s_Hymn

*2:古サクソン語と呼ばれる

*3:例えば、英語dayとドイツ語Tag, 英語toothとドイツ語Zahnのように、子音の変化が生じた

*4:英語fiveとドイツ語fünf, 英語usとドイツ語uns

*5:ドイツ語には今も複数に人称による形式の変化が保存されている

*6:古ノルド語、アイスランド語デンマーク語など

*7:ゴート語

*8:このderiveって言葉、この文脈だとわたしは「分派」と訳すかなあ…

*9:おそらくderiveの訳?ただしこのようなケースではあまり「派生」という訳語はあてない気がします

*10:たとえばCampbellのOld English Grammar p.2

*11:alvrとして出てくる。

*12:*の付いた形式は、実際には存在していない再建された形式をあらわす

*13:Frederik Kortlan. 2001. Initial Laryngeals in Anatolian. Orpheus 13-14, pp.9-12.

*14:参考文献一覧つけた方がよろしいでしょうか…。

フォローアップ

この記事は、わたしの4/19付記事「ビールオタが非オタの彼女にビール世界を軽く紹介するための10本」のフォローアップ記事です。全体としては三部構成です。

  1. ネタにしたビールに対するフォローアップ
  2. ブコメ返し
  3. フォロー記事

みたいな感じで書きます。まず、フォローアップから。

銀河高原ビールヴァイツェンと、インドの青鬼はこんなビールもあるのだという新しい世界への目覚めへのいざないとして、本当に良いビールだと思います。コンビニエンスストアでも売っているという入手性の良さも魅力的です。少し高いかもしれませんが、ラガービールではないビールとして、一度は飲んでほしいビールです。

W-IPAと帝国IPAは、IPAと呼ばれるビールのカテゴリーに入ります。IPAはIndia Pale Aleの略で、冷蔵技術が未発達だった時代に、インドまで変質なしでエール*1を運ぶために、ホップを多めに入れたビールに起源をもちます。実はインドの青鬼もIPAです。

ホップを多めに入れるという性質上、苦味がかなり強くなります。と同時に、ホップの持つ爽快な香りも強まるので、大変にさわやかで柑橘類のような香りも感じます。W-IPAと帝国IPAは、苦味が強いのですが、その苦味をしっかりとしたコクと甘みが受け止めている、大変に濃くてうまいビールです。W-IPAにはリアルエール*2もあり、これは穏やかな甘みとその後ろから立ち上がってくるホップの香りと苦みが絶妙なバランスを醸し出しており、飲むと癖になります。実は、W-IPAは限定醸造なので、先の記事で最初に挙げた条件からは外れてしまいます。あと、アルコール度数は8%とかなり高くなっています。

富士桜と飛騨高原のヴァイツェンは、どちらもフルーツっぽい香りとまろやかな甘さが特徴の、大変飲みやすいビールです。ビール苦手な人にお勧めしたいビールNo.1です。結構あちこちの地ビール会社が作っており、飲み比べをする楽しみもあります。富士桜高原ビールは、普通のヴァイツェンのほかに、デュンケルヴァイツェンという焦がしたモルトを使って風味を出したヴァイツェンや、ヴァイツェン・ボックというさらに濃厚でアルコール度数の高いタイプのビールも作っています。後者のヴァイツェン・ボックは、結構いろいろな地ビール会社で作られてもいるようです。フルーティーな香りと飲みやすさの裏腹のアルコール度数の高さで、撃沈される可能性の高いビールです。

エーデルピルスは、樽生限定で瓶や缶がないため*3、それを置いている飲食店で飲むしかありません。サッポロのウェブサイトにおいている販売店のリストがありますので、そこに行けば飲めます。日本の大手のビール会社は結構この種の限定ビールを作っていて、それらはどれもとてもうまいビールです。「もやしもん」のビール特集の巻にあった「大手ビールの本気を見せてあげるわ」というセリフは、伊達ではありません。

アサヒのスタウトは、あまり関東では見たことがありません。Wikipediaの記事などによるとこのビールは吹田の工場で年に一度だけ醸造されるものらしく、大阪の古い酒場には時々おいてあるのをみることがあります。わたしは最初に相合橋の「正宗屋」で見ました。ここはいつも混んでますが、アテがうまいのでお勧めです。アサヒスタウトには330mlの小瓶しかないのですが、小瓶で一本飲めば十分満足できると思います。アルコール度数は日本の大手ビールでは規格外の8%、糖類が添加されているということは、伝統的な乳糖添加のスタウト製法*4が守られているのかもしれません。

箕面ペールエールには、上で述べたリアルエール版と、普通に炭酸を添加して出されるものの二種類があります。後者はかなり苦みを感じる(とはいえW-IPAほどではない)のですが、リアルエール版は驚くほど穏やかで草の香りのする、飲んでいると時間が引き伸ばされているような感覚を覚えるビールです。ぐいぐい飲むのではなくて、大きなグラスで頼んでゆっくり飲むという楽しみ方をするのに向いています。

ピーテッドエールは、「地雷」のところに入れてしまいましたが、ラオホという麦芽をスモークして作るビール(富士桜高原などで作られています)の系統に入るまっとうなビールです。ずっしりした地の味の上に少し海の香りの混じったスモーキーなフレーバーをかすかに感じるうまいビールです。実はこれも限定醸造だったりします…。

*1:イギリス式の上面発酵のビール。

*2:二次発酵を樽内で行い、注ぐときに炭酸を添加しないため、ハンドポンプを用いてグラスに注ぐ。

*3:かつては缶があったようですが…。

*4:ベアードビールにママのミルクスタウトという伝統的な製法のスタウトがあります。

ビールオタが非オタの彼女にビール世界を軽く紹介するための10本

これ元ネタ2007年なんですな。

まあ、どのくらいの数のビールオタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、
 その上で全く知らないビールの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、ビールのことを紹介するために飲ませるべき10本を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女にビールを布教するのではなく 相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴う限定醸造、季節醸造のビールは避けたい。
できればコンビニで売ってる、最低でも楽天で売ってるビールにとどめたい。
あと、いくらビール的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
ビール好きが『赤星サッポロ』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。

彼女の設定は

ビール知識はいわゆる「第三のビール」的なものを除けば、「瓶入りプレミアムビール」程度は飲んでいる
サブカル度も低いが、頭はけっこう良い

という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

銀河高原ビールヴァイツェン銀河高原ビール
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「銀河高原ビール以前」を濃縮しきっていて、「銀河高原ビール以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。値段もお手頃だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この情報過多なビールについて、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。

ヴァイツェン(富士桜高原ビール)、ヴァイツェン(飛騨高原ビール)
ヴァイツェンって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうなビール(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「ビールオタとしてはこの二つは“お酒”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。

W-IPA箕面ビール)
ある種の極苦ビールオタが持ってるホップ感への憧憬と、ビールオタ的なモルトのうまみへのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも箕面ビールな
アメリカンなホップ感」を体現する苦さと香り
「イギリス的なエール感」を体現するモルトの甘さ
をはじめとして、ビールオタ好きのするポイントをちりばめているのが、紹介してみたい理由。

帝国IPA(ベアードビール)
たぶんこれを飲んだ彼女は「ラグニタスだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この系譜の作品がその後続いていないこと、これがアメリカでは大人気になったこと、アメリカならファクトリー生産ビールになって、それが日本に輸入されてもおかしくはなさそうなのに、日本国内でこういうのがつくられないこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。

エーデルピルス(サッポロビール
「やっぱりビールは大手のものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「アサヒ熟撰」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかけるサッポロビールの思いが好きだから。
断腸の思いでホップを投入してそれでも普通のビールの3倍、っていうのが、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「味わい」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
エーデルピルスの旨みを俺自身は冗長とは思わないし、もうこれ以上濃厚にはできないとは思うけれど、一方でこれが伊勢角屋やベアレンだったらきっちりIPL*1にしてしまうだろうとも思う。
なのに、樽生限定でピルスナーを作ってしまう、というあたり、どうしても「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえサッポロがそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。

アサヒスタウト(アサヒビール
今の若年層でアサヒスタウト見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
熟撰よりも前の段階で、アサヒビールの哲学とかビール技法とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティのビールが市販ビールで戦前からあったんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなくビール好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆるアサヒスーパードライでしかアサヒを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。

箕面ペールエール(リアルエール版)(箕面ビール)
箕面ビール*2の「味」あるいは「ビールづくり」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「終わらない酔いを感じ続ける」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそリアルエール版『東京ブラック』はリアルエール以外ではあり得なかったとも思う。
リアルエール化したプレミアムビールを楽しむ」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は箕面ペールエールにあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。

ピーテッドエール(ベアレンビール)
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういうアイラモルト風味のピート感をこういうかたちでビール化して、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。

インドの青鬼(ヤッホーブルーイング)
9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にインドの青鬼を選んだ。
銀河高原ビールから始まってヤッホー・ブルーイングで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、エチゴビール以降の地ビール時代の先駆けとなった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。
「駄目だこいつは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい*3

先生、たったの10本ではうまいビールを紹介するには全く足りません。

*1:India Pale Lager

*2:箕面ビールが多いのは偶然じゃないんだからねっ!

*3:マジで教えてください。苦味とかモルト感が強いビールが好きです。